GALLERY KOGURE
誰でも毎日見る夢。深層心理から繰り出され、モラルもルールもなく無限大なその世界は唯一自分しか知り得ない聖域でありながら、思いのままにならない難攻不落の敵でもある。日々の些細な出来事とあらゆる情報、 本心や欲望、脅威やストレス、愛情と喜び、そして忘却の彼方に至るまで、膨大な脳内情報が眠りの度に編集されロードされる。
近藤は10年前から夢を記録し始めた。簡単なことではない。眠りの度、まだ目覚めきれないうちに筆記する作業は、日々内筋を鍛え上げるようなもので、無意識な脳裏を意識するという鍛錬だ。10年といえば、アーティスト近藤智美の明らかな誕生よりも前にさかのぼるのだから、これまでの彼女の世界観に多大なる影響を与えてきたのは彼女の脳裏そのものという事になる。夢日記は取扱う人によっては度が過ぎると精神に異常をきたすとも言われるが、近藤は強かった。近藤智美の夢の中、是非ご高覧ください。
「こんな時代に夢日記」ここ10年くらい夢日記をつけている。内容は、戦争、エロス、美術、宇宙、巨人もの、便所、死体、イカタコ頭足類、母、猫、幼なじみのひろ子ちゃん。など。高解像度の悪夢を見る。まず寝起き5分というのが大事だ。ここで夢のしっぽを掴まないとするりと逃げていってしまう。自意識が発動してしまってもいけない。かといって無意識に偏り過ぎるのもよくない。出来るだけ寝ぼけ続けた状態で、悪夢のディテールを淡々と追っていく。「強力な合理性を身につけ、敢えて非合理の世界と向き合う姿勢を持つこと」(河合隼雄)夢はそうやってこちらを試してくるらしい。私が悪夢を面白がるうちは、夢もちゃんと答えてくれるようだ。私にとって夢日記は、現実に戻って生き延びる力をアップさせてくれるものだ。それが作品に反映されればと、シリアスにならない方向を目指して油絵におこした。今回の個展は夢によく出てくるシチュエーションの中から、第一弾として「母、母性」にふんわりとテーマを絞り制作した。精神看護学に関わっている母に心理学に関する教材を貸して欲しいと乞うたところ「ネットで調べたら?」と有難い助言をしてくれた母親に捧げたいと思う。人に見せるつもりで書いていないものが読み手を意識した途端変わってしまうかもしれないのは残念だが、それはそれで美術の始まりでもある。みんなの夢も聞かせてください。近藤智美
1985 広島県生まれ
■個展2011 「フォアグラプール」Art Lab TOKYO(東京)2012 「入れ子犯罪」 Art Lab TOKYO(東京)2013 「延命治療室」Art Lab TOKYO(東京)2017 「媚ビ術研究」ヴァニラ画廊(東京)
■グループ展2010 「ガーリー2010」川崎市民ミュージアム(神奈川)2012 「VOCA2012」上野の森美術館(東京)2013 「LOVE 展」森美術館(東京)2017 「THE ドラえもん展 TOKYO2017」森アーツセンターギャラリー(東京)2018 「篠原愛・近藤智美 二人展 “よい子?わるい子?自己主張?”」 ギャラリーアートもりもと(東京)2019 「山下裕二の隠し球」展 日本橋三越本店 (東京)2020 「Metropolis 2020」展 高島屋日本橋店(東京)