GALLERY KOGURE
この度、LOWER AKIHABARA.では、山本隆博の個展を開催いたします。
本展では、小品を中心とした『Re:View』シリーズ、並びに『Rorschach』シリーズに加え、今回新たに『Broken Frame Abstract』を発表いたします。
本展終了後、山本はニューヨークへと旅立ちます。
是非、この機会にご高覧下さいませ。
現在、様々な分野において、これまで対の関係にあった概念同士の枠組みを取り払い、その間をなめらかに繋いでしまおうという動きがおこっています。最近ではgoogleやFacebookといった名だたる企業がVR(仮想現実)技術開発に乗り出したことが話題になっています。この技術が目指すところは、いつでもどこでもVRにアクセスできる状況をつくり、文字通りリアルとバーチャルをなめらかにつなげることだと言われています。また、LGBTという言葉も近年話題になり、男性と女性という性別区分をなくし多様な性のあり方を認めようという動きも起こっています。これに伴い現在では性別の選択肢は格段に増え、Facebookでは50を越える性別が選択可能になっています。他にもインターネット上では、国境や民族という枠組みに縛られないコミュニティが増え、莫大なデータをもとにおこなわれる統計処理(ビッグデータ)は、個人という枠組みすら解体しようとしています。これまで僕は、写真を使った『Re:View』シリーズではリアルとバーチャルの境界が、その拡張版である『Rorschach』シリーズではオリジナルとコピーの境界が曖昧になるという状況をつくってきました。ポストカードシリーズではそれに加えて、自己と他者、自国と他国といったアイデンティティの境界を揺るがすアプローチもおこなってきました。例えば、私たち日本人は富士山を日本の象徴として扱っていますが、富士山が分類される成層火山は世界中に数多く存在しています。[成層火山]というキーワードで画像検索をすると、世界中の似たような山が並べられ、どれが富士山なのか一見しただけでは判別できません。このように比較対象の数が増えると、この世にたった一つしか無いと思っていたものと似たものが多数発見されるということが起こります。この結果は十人十色という言葉の神話性の解体を意味するのではないでしょうか。僕たちはこれまで、十人十色という言葉を、世界中の人々はみんなそれぞれ違うんだという意味で使ってきました。しかし、世界という言葉の枠が拡張され、人々の数が増加した結果、十人十色という言葉は僕たちが現実空間で直接関われる人数の間でのみ通用する概念なのではないだろうかと思えてきました。つまり、千人千色や一万人一万色はあり得ても、十億人十億色は難しいのではないかということです。 今回発表する『Broken Frame Abstract』というシリーズは、僕たちがこれまで使ってきた概念的枠組みが様々なところで崩れてきているとい状況そのものを抽象的に扱った作品になっています。これまで僕たちが使ってきた枠組が次々と効果を失っているわけですが、その代わりとなる新しい枠組みも次々と生まれています。実際、上に挙げた枠組みの崩壊のほとんどがインターネットという新しい枠組みの登場と関係し、そもそも人間は、言語というツールを使うかぎり概念的枠組みから逃れることはできないと言われています。枠組みによって利便性を享受する人もいれば苦しむ人もいる。その結果、解体と再編成がおこなわれる。Unlimited Frameworksこのスパイラルはいつか解消される日がくるのでしょうか。2016年山本隆博