金澤水銀窟では川端健太(1994~)の個展を開催いたします。
幼いころ身体が弱く、母に連れられ病院を回っていた川端。医者は自分を直接診察するというよりも、モニターやカルテを通して診ているように感じられ、カルテを見る医者の横顔が強く記憶に残っているという。
一方で戦時中に看護師をしていた祖母は「薬もなく、背中をさすって声をかけ最期を看取るしかできなかった」と語った。彼が経験した、自分が見られていないという感覚とは対照的な言葉であった。
私たちが生きる現代は祖母が生きた時代よりも格段に医療が発達し、多くの命が救われている。しかし、直接的に見られたり触れられたりするコミュニケーションは、医療に限らず様々な場面で希薄になっている。新型コロナウイルスの影響でオンラインのコミュニケーションが普及したが、一方であらゆるコミュニケーションの間にモニターやカルテのような記号的なフィルターが介在している。
川端は、川人と人との間にあるそうしたフィルター、さらに言えばノイズのような現代特有のコミュニケーションや視覚体験をテーマに取材を重ね、絵画や彫刻作品を制作している。